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じつは「認知症」を予防する…「自律神経」からみた意外な方法(引用記事)


「心身の不調は自律神経が原因かもしれない」
「自律神経のバランスが乱れている」などとよく耳にします。
そもそも、自律神経とはどのような神経なのでしょうか?
簡単に言えば「内臓の働きを調整している神経」。
全身の臓器とつながり、身体の内部環境を守っています。
自律神経に関わる歴史的な研究を辿りながら、
交感神経・副交感神経の仕組みや新たに発見された
「第三の自律神経」の働きまで、丁寧に解説していきます。

【脳の血流を増やす神経 ─脳内自律神経の役割】



皮膚への刺激は脳にも影響します。

たとえば麻酔したネズミの顔や背中、
前足や後足の皮膚を刺激すると、
脳(大脳新皮質)の血流が増えるのです。
特に前足と後足の刺激で血流が増えます。
これは手足への刺激が
脳を活性化している可能性を示唆しています。

この場合、脳の血流はどのようなメカニズムで増えるのでしょう?

手足への刺激では、脳血流のみならず、
脳内のアセチルコリン、
およびマイネルト核というところから出ている
神経の活動も増えることがわかっています。
その神経の活動が増え、
脳内に多量のアセチルコリンが放出された結果、
脳血流が増えているのです。

マイネルト核から出ている神経とはどういうものでしょう?
マイネルト核というのは額の少し奥にある場所で、
前脳基底部の名称でも知られます。
ここから出ている神経は大脳全体に広がり、
大脳全体の血流を増やしているのです。
この神経はアセチルコリンを神経伝達物質としているので、
前脳基底部コリン作動性神経などの名前がついています(図3−7)。


前脳基底部コリン作動性神経に
脳血流を増やす働きがあることが証明されたのは1989年。
自律神経と同じ神経伝達物質を持ち、
自律神経と同じように血流を調節する働きがあることから、
この神経を脳内自律神経と称しました。
現在ではこの神経が私たちの認知機能を保つうえで
めて重要であることがわかっています。
認知症やパーキンソン病などの患者さんでは
脳血流が減ることが報告されていますが、
これは前脳基底部コリン作動性神経が
減るためと考えられているのです。

【散歩、料理、アロマ……
自律神経からみた認知症予防法の効果とは?】


昔から、料理や散歩など手足への刺激は、
認知症の予防になるといわれてきました。
それはなぜなのか? 
手足への刺激が脳の血流を増やすという前項のデータは、
その根拠の一つとなりえましょう。
実際、麻酔していないネズミを歩かせてみても、
脳血流は増えるのです。

手足だけでなく、咀嚼や耳たぶなど顔面への刺激も、
脳血流を増やすことが明らかにされています。
そういうことを鑑みると、私たちが試合や試験などの前に
顔を叩いて気合いを入れているのは、
生理学的にも理にかなっているのかもしれません。
先ほどの実験がヒトにも当てはまるならば、
寝たきりの患者さんの手や足をさすったり、
動かしてあげることで、運動機能だけでなく、
脳機能をも維持してあげられる可能性があるでしょう。

前脳基底部コリン作動性神経は、
具体的には脳内の大脳新皮質、海馬、嗅球の
3つの領域に軸索を延ばしています。
大脳新皮質は認知機能に重要な部位なので、
そこに延びている神経線維が
何らかの理由で損傷を受けた場合には、
認知機能に影響が現れることが推測されます。
一方、海馬に延びている神経線維が減った場合には、
海馬は記憶と関わりの深い場所ですから、
記憶力の低下を招きうるでしょう。
さらには嗅球に延びている神経線維が減った場合には、
嗅球は匂いの感覚に重要ですから、
嗅覚が下がりうるでしょう。

嗅覚機能の減退は、
アルツハイマー病の初期症状として知られています。
その理由として
東京都健康長寿医療センターの内田さえ氏が
近年指摘しているのは、
前脳基底部コリン作動性神経の損傷です。
じつは前脳基底部コリン作動性神経のうち、
嗅球に延びている線維の数がもっとも少なく、
そのため神経に損傷が起きるような病態の際には、
嗅球の機能が最初にダメージを受けやすいと考えられるのです。
日常生活においてさまざまな種類の香りを楽しみ、
嗅覚を研ぎ澄ますのも、
認知症の予防になるかもしれません。
神経というのは、適度に使えば使うだけ鍛えられるもの、
そう考えられています。



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*本記事は医学博士鈴木 郁子さんの著書
『自律神経の科学 「身体が整う」とはどういうことか』を抜粋・再編集したものです。
元記事はこちら→じつは「認知症」を予防する…「自律神経」からみた意外な方法(鈴木 郁子) | ブルーバックス | 講談社(1/2) (gendai.media)

鈴木 郁子さんプロフィール

歯学博士・医学博士・日本保健医療大学保健医療学部教授
1962年、北海道生まれ。幼少期を米国、ドイツで過ごす。お茶の水女子大学理学部生物学科卒業。東京医科歯科大学大学院歯学研究科高齢者歯科学専攻修了。歯学博士・医学博士。専門は生理学。東邦大学医学部生理学講座助手・講師を経て、現在、日本保健医療大学保健医療学部教授、昭和大学医学部生理学講座客員教授兼務。

主な著書・編著書に『やさしい自律神経生理学 命を支える仕組み』(中外医学社)、『やさしい環境生理学 地球環境と命のつながり』『人間と生活 地球の健康を考える』(いずれも錦房)、『生理学をめぐる旅 研究を紡いだ若者たち』(中外医学社:近刊)がある。