健康情報

アウトドア系には「爽やかな人」が多く、インドア系には「いつもイライラしている人」が多い科学的な理由(引用記事)


【最新研究で明らかになった「運動不足」の本当のリスク】


ストレスを解消するにはどうすればいいのか。
東京大学特任研究員の安川新一郎さんは
「息が少し上がる程度の運動習慣をつけることが大切だ。
近年の研究によって、低強度の運動は記憶力や発想力を高め、
健やかな精神をもたらすことが科学的に明らかになってきている」という――。

【人類史上最も運動しない現代人】


皆さんは、今日何歩歩いたでしょうか?
最後にしっかりと運動をしたのはいつでしょうか?

会社員時代は私も、
オフィスビルに吸い込まれるように出社した後はミーティングが続き、
10時間後にビルを出たら外は真っ暗という日々が毎日続いていました。
コロナ禍による自粛期間はリモートワークで、
身体を動かさない日が多かったのではないかと思います。

世界保健機関(WHO)によると、
世界の14億人が運動不足であると報告されています。

東京都顧問をしていた時に、
オリンピック開催後に残す遺産(レガシー)の1つとして、
いかにスポーツの習慣を都民に持ってもらうかについて
東京都のオリンピック・パラリンピック準備局の方々と検討したことがあります。
日本では成人の35.5%が運動不足(男性33.8%、女性37.0%)であり、
特に若い年代の女性に全く運動習慣がないことが問題視されていました。

有酸素運動による健康上の効果は、
内臓脂肪を減少させメタボリックシンドロームによる
動脈硬化や心筋梗塞等様々な生活習慣病を
予防・改善するとして、既に広く知られています。
それ以上に、ここ10年の研究で注目されているのは、
運動の脳の働きやメンタルヘルス改善への効果です。

運動して汗を搔くと爽やかな気持ちになる、
これは誰しも経験したことがあると思います。
近年の研究によって、
「低強度の運動は、記憶力や発想力を高め、健やかな精神をもたらす」
ことが科学的に明らかになってきました。

【神経科学者・ホーキンス氏が提唱する「1000の脳」】


私はロボット開発企業のアドバイザーをしていた時期に、
趣味のロードバイクに乗りながら、
人間の感覚器官・脳の働き・身体器官の連携の
スムーズさについて改めて考えたことがあります。
視界に入ってくる情報から、路面の小さな段差によるショックの強さを想定したり、
ハンドルをわずかに傾けることで小石を回避したりするなど、
刻々と訪れる感覚情報から一瞬先を予測しながらペダルを漕ぐ身体機能は、
ロボットが簡単に真似できるものではありません。

神経科学者のジェフ・ホーキンスによる
「1000の脳(Thousand Brains)」という説があります。
脳が物体の位置とその変化を記述する「座標系」を持っていて、
移動する毎に、大脳の皮質コラムの予測モデルが新しい環境を学習・予測し、
思考と体験を生むという説です。
このような「感覚運動学習」が、私達の日常生活の行動全て
(目の前のコーヒーカップを取る、階段を走り下りるなど)
において起きています。

【知能は「座標系」の学習モデルを用いて思考している】


この理論によると脳は、
無意識にたくさんの脳の皮質コラムの予測学習モデルを起動
(活動電位までに至らないレベルで細胞の電圧を少し起動)させつつ、
予想外の感覚情報が来るとニューロンを活動電位まで発火させ、
判断と行動を行います。

私達はビルを何気なく見上げている時に、
空から予想外の物体が落下してきたら、
頭を抱えてしゃがむか、避けようとすると思います。
予測学習モデルと違った感覚情報が突然現れた時、
一気に活動電位にまでニューロンを発火させ新しい思考と行動を促すのです。

重要なことは、この「皮質コラム」の予測学習モデルは、
思考と体験に基づく高次の概念においても同じように機能するということです。
過去の学習によって、ボタンを押せば何が起きるか、という具体的な事象から、
民主主義という言葉が何を意味するか、といった抽象的な概念においても、
私達の知能は座標系の学習モデルを用いて思考しているのではないかと
ホーキンスは主張しています。

ジェフ・ホーキンスジェフ・ホーキンス(写真=Ed Schipul/CC-BY-SA-2.0/Wikimedia Commons)

【人類の歴史の95%は「運動と移動の旅の歴史」】


この発見の大きなポイントは、
人間の脳は「場所移動」による感覚情報の変化に伴って
ニューロンを活発化させ、思考と行動を行うということです。
すなわち、家の中に引きこもっているのではなく、
外に出て移動し、時に運動し、様々な刺激に出会う時に、
脳の働きが最も活性化するように人間の脳は作られているということです。

人類の誕生から定住して農耕を始めるまで、
その長い歴史は狩猟採集民族として、大型動物を追っての旅と移動の歴史でした。
現生人類の祖先は、サハラ以南ボツワナあたりに住んでいたと言われています。

彼らがアフリカを出て、ユーラシアを渡り、アメリカに渡り、
南アメリカのフエゴ島にまで5万キロメートルを旅して、
世界中に人類が拡散したと言われています
(ちなみに私の会社の社名は、
その人類の旅「グレートジャーニー」にちなんでいます)。
そうした意味では、人類の歴史の95%は、
狩猟採集民族の歴史であると同時に、
運動と移動の旅の歴史でもあります。

【「狩りの旅」に向かわせる神経伝達物質】


私たちの行動は様々な神経伝達物質によってコントロールされていますが、
これらはいわば、私達を新しい場所への狩りの旅に向かわせるためのものでもあります。
狩りにおいて天敵か獲物に出会った時、
その情報はストレスとして察知され、コルチゾールが分泌されて、
脳と身体が、闘争(Fight)か逃走(Flight)か、
身を硬くしての防御(Freeze)かの臨戦態勢に入ります。

別の神経伝達物質ドーパミンは、
感覚中枢から伝えられた情報の中からノイズを排除し
目の前のことに集中させる機能も持っています。
カフェやコワーキングスペースのざわめきの中でも、
自分の読書や作業に集中できるのは、ドーパミンのおかげです。

また、集中していても近くで自分の名前が聞こえると
突然、意識をその会話に向けることもできます。
「皮質コラム」における予測学習モデルとドーパミンのおかげです。
自分の名前が出ないと予測している状況では、
ニューロンを活動電位に至らないレベルで起動させつつ、
自分の名前が聞こえたという感覚中枢からの情報には
ニューロンが発火し、集中力を向けさせます。

このような「喧騒のなかで意味のある情報を抽出する」
ということがAIはとても苦手だと言われています。
なぜなら、AIには自己意識や、そのための意味抽出という概念がなく、
マイクから均等に収集された音声情報の中で何が意味があるのか、
(事前にプログラムされていない限り)判断できないからです。

【車窓の景色を見ながら涙を浮かべるロボットはいない】


ロボットに搭載されているAIには今のところ、
人間が命令した特定用途の目的遂行のための知能しかなく、
自己保存や自己複製を目的に様々な行動を動機づける
人間の神経伝達物質のような自律的な機能はありません。
機械やロボットが事前にプログラムされた以外の行動を取ることはありません。
何らかのセンサーデータを集めて特定の動きに関する学習をすることはありますが、
そこから感情が芽生えたりすることももちろんないのです。

全ての生物は、生存の為に自分の意思で自律的に運動を行います。
微生物ですら、刺激源に対して方向性をもって体を移動させる
「走性」の運動能力を持っています。
私達が、快適な自宅を離れて、ふと知らない場所への旅に出たくなるのも、
それによって癒やされるのも、
そうした生物としての根源的な脳の働きのためと言えます。

私達は、ぼんやりと車窓に流れる景色を眺めることが好きです。
しかし、放浪の旅に出てしまうAIや、
車窓の景色を見ながらふと涙を浮かべるロボットはいません。
移動と運動に対する根源的欲求、
それらは私達の脳(HI/ヒューマン・インテリジェンス)の特徴です。

【問題はストレスが発生することではなく、解消できないこと】


ストレスという言葉には心労や重圧といった否定的な印象がありますが、
実は本来、生存や成長のためには不可欠な「外部情報への反応」です。
ストレスを感じ、身体を一時的に緊張状態に持っていくことで、
危機と対峙たいじし、それを乗り越えたり、困難に前向きに対処することができます。
またストレスは、より高い目標を掲げたからこそ発生する場合もあります。
優れたアスリートは、プレッシャーを前向きに楽しみ、それを糧に好成績を挙げます。

しかし、狩猟採集民族の頃から変わらない私達の身体と
現代社会のミスマッチによって、
私達はストレス状態から逃れられない状況に陥る場合があります。

人類の死因が飢餓、感染症、殺人、出産、出血死だった時代は過ぎ去り、
日常的に生命の危険に直結するストレスを感じる機会は少なくなったはずです。し
かしそれでも私達は生命の危険を抽象概念として理解することができるので、
何か危険な状況に陥る可能性を想像するだけでストレスを感じます。

会社の将来に対する漠然とした不安、
考え方の合わない上司に対する不信、
さらには自分自身の能力や才能に対する不満……など、
将来の可能性を想像する力があるがゆえの私達のストレスは、
生命の危険がなくなっても減ることはありません。

【ストレスを感じても、闘争も逃走も防御もできない】


身体的には安全でも、狩猟採集民族としての私達の身体機能は、
ストレスに対して同様にコルチゾールを分泌させるため、
快適なオフィスビルの会議室の中でも動悸どうきが高まり筋肉が緊張し、
喉がカラカラになります。

一方で、近代社会においてはストレスを感じても、
闘争も逃走も防御もできないという閉塞へいそく状態に陥ることがままあります。

嫌いな上司がいる職場でも、上司を首にすること(闘争:Fight)も、
会社を辞めること(逃走:Flight)も、
定時前帰宅や出社拒否をすること(防御:Freeze)もできない状況が続き、
豊かで清潔で安全な環境にもかかわらず、
狩猟採集民族の頃と同じ強いストレス状態が構造的に
(安全だからこそ)慢性化する危険があるのです。

【定期的な運動によって、気持ちはコントロールできる】


コルチゾールが分泌される状態が続くと、
脳の短期記憶に重要な役割を占める海馬や、
抽象的な思考や分析的な思考を司る
前頭前皮質を含む前頭葉が萎縮してくると言われています。
ストレスを感じてイライラしている人が、
冷静で合理的な判断を下すことが期待できなくなっている状態です。
このストレスによるコルチゾールが、
定期的な運動によって過度に上昇しなくなることがわかってきています。

身体を動かしている時は感覚器が鋭敏に機能しているため、
ものが飛んできた時に避けたりするなど、
外部環境の変化に素早く反応できます。
常に運動状態にあると身体が認識することで、
コルチゾール分泌が少なくても闘争か逃走かの状態に
身体が速やかに反応できると判断している、もしくは運動によって疑似的にでも、
闘争や逃走による危険回避行動を取っていると脳が感じているのかもしれません。

また、スポーツマンや登山を趣味にする人は、
特にその運動の最中は、性格が落ち着いていて爽やかな人が多いように思えます。
これらは、運動によって日常生活における過度のストレスを解消し、
気持ちのコントロールが常にできているからではないでしょうか。

神戸針灸接骨治療院ではこのような健康になるためのお話なども投稿しています。


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※本記事は、安川新一郎さんの著書『ブレイン・ワークアウト』(KADOKAWA)の一部を再編集した記事を引用したものです。
元記事はこちら→アウトドア系には「爽やかな人」が多く、インドア系には「いつもイライラしている人」が多い科学的な理由 最新研究で明らかになった「運動不足」の本当のリスク | PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)

安川 新一郎さんプロフィール
東京大学未来ビジョン研究センター特任研究員
グレートジャーニー代表。1991年、一橋大学経済学部を卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーへ入社、東京支社・シカゴ支社に勤務。99年、ソフトバンクに社長室長として入社、執行役員本部長等を歴任。2016年、社会課題を解決するコレクティブインパクト投資と未来社会実現のための企業支援に向けグレートジャーニーを創業。これまで東京都顧問、大阪府・市特別参与、内閣官房政府CIO補佐官、Well-being for Planet Earth共同創業者兼特別参与等、行政の現場や公益財団活動からの社会変革も模索している。