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“若返りホルモン”を分泌させる「骨トレ」の方法は? 糖尿病、動脈硬化、認知症にも効果が(引用記事)

 高齢化の進展で骨粗鬆症(こつそしょうしょう)はがんより怖い病気になりつつある。
防ぐ決め手は「オステオカルシン」。運動によって分泌を促すことができ、骨だけでなくさまざまな臓器や脳にも効く若返りホルモンだ。『抜群の若返り!「骨トレ100秒」』の著者・太田博明氏が解説する。

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 最初にちょっと怖い数字をご紹介しましょう。日本には現在、骨粗鬆症の患者さんが女性で約980万人、男性が約300万人います。この病気は高齢者に多く、進行すると簡単に骨折してしまうのですが、骨を折ってしまった場合、その後はどうなるのでしょうか。

 オーストラリアで発表された論文によると、75歳以上で大腿骨を骨折した方の5年生存率は女性が36.3%、男性だとわずか10.2%しかない。生命予後が非常に悪いのです。もともと高齢なので余命が限られているということもありますが、医療の進歩でがん全体の5年生存率が6割を超えるまでに改善していることを考えると、年を取ってからの骨折がいかに恐ろしくて、命に関わるのかということが、お分かりでしょう。

骨の健康を研究する理由

 日本人の生命寿命は世界でもトップクラスですが、最近注目されているのは、健康でいられる時間、つまり健康寿命です。
その健康寿命を失う原因でもっとも多いのは、運動器(骨や筋肉など)の疾患であることが分かっています。

医学の世界では「筋骨連関」と呼びますが、骨と筋肉は密接な関係にあり、骨が健康だと筋肉の張りもいい。
逆に筋肉がダメージを受けると、骨も衰えてしまう。
骨折によって歩けなくなったり、体を動かすのがおっくうになると、筋肉量もぐんと落ちる。
なかには「サルコペニア」といわれる、筋肉が減少した状態になる人もいます。
すると、いろんな病気を引き寄せてしまうのです。
また、体を動かせなくなった結果、肥満が進んで糖尿病になるケースもある。
骨粗鬆症による骨折は生活の質を著しく落としてしまうのです。
実を言うと、私が産婦人科医として、骨の健康を研究している理由はここにあります。

なぜ骨はスカスカになる?

もともと産婦人科における私の専門は、更年期に入った女性の予防医学です。
閉経が近づいた女性は様々さまざまな不調や病気を患います。
更年期障害もその一つです。
研究しているうち、対象が高齢者全体に広がり、いつの間にか抗加齢医学を手掛けるようになった。
あまり知られていませんが、実は高齢者の病気で一番多いのが骨粗鬆症です。
読んで字のとおり、骨の中がスカスカになってしまう病気で、
自分でも気が付かないうちに進行し、何かの拍子で骨折してしまう。
しかも、一度ではなく何度も折ってしまう。
なぜ、骨がスカスカになってしまうのでしょうか。

 骨の中には、司令塔役の「骨細胞」

そして骨細胞から指示を受けて骨を壊す「破骨細胞」、逆に骨細胞の命令で骨を作る「骨芽細胞」の三つがあります。
その量は骨細胞が90%、破骨細胞が9%、そして骨芽細胞が1%の割合です。
骨芽細胞は破骨細胞の9分の1しかなく、いうなれば、骨の中は“解体屋”のほうが圧倒的に多い。
若い時は骨芽細胞が頑張って骨を作ってくれるのでバランスが取れているのですが、
もともと破骨細胞のほうが多いものだから、加齢とともに骨を壊す力が強くなってしまうのです。
特に女性の場合は更年期に入ると、ホルモンが減り、
それまで働きを抑えていた破骨細胞を止められなくなり、骨芽細胞を刺激できなくなる。
冒頭でも紹介しましたが、骨粗鬆症患者の8割は女性です。これを治したいというのが、私の出発点でもあったわけです。

骨を増やす働きをする「オステオカルシン」

 骨粗鬆症は海外でも予防や治療法について昔から研究されてきましたが、
2007年に米コロンビア大学のジェラール・カーセンティー教授が、
ある物質に関する研究を発表しました。それが、「オステオカルシン」です。

 オステオカルシンは骨芽細胞から分泌されるホルモンで、その存在は以前から知られてはいました。
しかしどんな働きをするのかよく分かっていなかった。
ところが、カーセンティー教授はオステオカルシンに骨芽細胞を活発化させ、
破骨細胞の働きを抑える機能があることを発見します。
つまり、骨を増やす働きをすることを突き止めたのです。
しかも、それどころではありません。
驚いたことに、他にも重要な役目を持っていることが分かった。それが「若返り機能」です。

 例えばオステオカルシンが骨芽細胞から分泌されると骨から出て、血管に達する。
そこで血管を弛緩させて動脈硬化を防いでくれるのです。
また、この物質は脳の内部にも届けられます。
海馬という部分をご存じでしょうか。
主に記憶をつかさどる場所で、年を取るとここが衰えて、物覚えが悪くなります。
オステオカルシンは海馬に働きかけて脳神経を刺激する作用があり、記憶機能が回復するのです。
また、すい臓にも働き、インスリンの分泌を促す。
糖尿病を防いでくれるわけです。
さらに肝臓に対しては、肝細胞が活発に動くように働きかける。
加えて、男性では精巣にも作用し、男性ホルモンの分泌を促す。精力増強効果があるのです。
これらはオステオカルシンの効能の一部ですが、「若返り」というからには、高齢者も分泌できなくてはなりません。
詳しくは後述しますが、うれしいことに年を取っていてもオステオカルシンの分泌を促す方法があるのです。

それぞれの場所で若返り機能が発動

ここで、少し専門的な話をすると、オステオカルシンが多数の臓器に作用するのは、ホルモンの一種だからです。
例えば、ご存じのように女性ホルモンは胸を大きくしたり、肌つやを滑らかにするなど、
体のいろいろな場所に働きかけます。それは体のあちこちに女性ホルモンの作用を感知する「受容体」があるからです。
これと同じで、脳やすい臓・肝臓などにはオステオカルシンの受容体があり、
分泌されたホルモンをキャッチすると、それぞれの場所で若返り機能が発動する。
ホルモンには沢山の種類がありさまざまな研究が行われてきましたが、
オステオカルシンの働きが分かってきたのは最近のことなのです。

伝達役を担う骨

 それにしても、なぜ、このようなホルモンが、しかも骨から分泌されるのでしょうか。
現在のところ詳しくは分かっていませんが、おそらく、太古の昔から人類がオオカミなど天敵から走って逃げようとする際、もっとも負担がかかっていたのが骨であることと関係しています。
全力で走ったり跳ねたりするには、強靭な骨が必要です。
内臓の機能も丈夫でなくてはならない。天敵から逃げるための知恵も必要です。
そこで骨細胞にかかる衝撃を起点に、骨自身や他の臓器を活性化させるためのホルモンを出すようになった。
それがオステオカルシンなのかもしれません。
実際に加速度センサーで測ってみると、足のかかとに垂直荷重方向の衝撃を与えた際、
そのまま頭蓋骨に80%近くが伝わることが分かっています。
全身の骨組織にホルモンを分泌するよう骨が伝達役を担っていると考えられます。

骨密度を年率6%増やす薬が

 この記事を読んでいる方の中には
「そんな若返りできるホルモンなら、薬にして毎日飲めばいいのではないか」と思う人もいるでしょう。
しかし、残念ながらオステオカルシンは現在のところ、どの製薬会社も薬にできていないのです。
オステオカルシン配合をうたったサプリなどが売られていたとしても、中身が本物かどうか分かりません。
ただし、骨粗鬆症自体を治療したいのなら、最近では良い薬が出ています。
米アムジェンが開発したロモソズマブ(商品名イベニティ)やデノスマブ(商品名プラリア)といった分子標的薬ですが、
ロモソズマブは大腿骨の骨密度を年率で6%増やす効果があります。
骨粗鬆症を治療する医師としては、新薬の登場は非常にありがたいことです。
しかし、もし薬に頼らずオステオカルシンを自分で分泌できるのなら、それに越したことはありません。
骨を丈夫にするだけでなく、腎臓や肝臓、すい臓、それに脳まで若返らせるのですから。

かかとに衝撃を与えるトレーニング

 実はオステオカルシンを分泌させるトレーニング法を編み出した研究施設があります。

この研究を行ったのはイギリスのクイーンズ・メディカルセンターで、
閉経から平均7年を経過した女性に対し、かかとに衝撃を与えるトレーニング(1日50回を週1度、1年間継続)を行ってもらったところ、大腿骨転子部(足の付け根)の骨密度が減っていないことが分かったのです。
この部位は普通、年齢とともに骨密度が低下するのですが、それが防止できたのです。

 これを日本に紹介したのが、東京都健康長寿医療センターの理学療法士・大渕修一先生(現在、同センター研究部長)ですが、その後私がテレビなどで取り上げたところ大きな反響があった。
そこで改めて皆さんが取り組みやすいように「骨トレ」として、ことあるごとに紹介するようになったというわけです。
特筆すべきは、高齢者であっても正しいトレーニングをすればオステオカルシンが分泌されるということ。
まさに若返りを促す運動なのです。では、いよいよ実践編です。

かかと落としを1日に30~50回

 まず、骨トレの入門編として「かかと落とし」を行います。難しいことはありません。
つま先立ちで両足のかかとを上げてから真下に落とす。これを1日30~50回行うだけでいいのです。
骨の細胞は日々入れ替わっていますから、できるなら毎日行いましょう。
時間にして合計1分から1分半ぐらい。負担に感じなければ一度に行って構いません。
あまりに簡単すぎて、本当に効くの?と疑われるかもしれませんが、
実はこれだけで3Gの重力(体重の3倍)が体にかかっています。

 大事なことは足裏(かかと)を上げたら、ストン!と真下に下ろすことです。
衝撃が骨に伝わることで、骨細胞にオステオカルシンが必要であることが伝えられるのです。
骨細胞には小さな突起があり、衝撃はそれを介して全身の骨細胞に伝えられる。
つまり、他の内臓や、脳を守る骨の骨細胞に指令が飛ぶわけです。

ジェットコースターに乗るのと同じ重力が

 立って行うのが面倒だったら「その場足踏み」もいいでしょう。
これは椅子に座り、つま先立ちになってかかとから下ろす。もちろん、ストン!が大事です。
これを左右交互に30回ずつ、1日3セット行います。
椅子に座ることが多い方は、「その場足踏み」のほうが「かかと落とし」より効果は少ないけれどやりやすいと思います。

 さらに私が勧めるのは「ミニジャンプ」です。ミニジャンプは、その場で10センチほど上に跳んで足裏全体で着地、これを1日30回行います。10センチほどの高さをジャンプするとき、できれば反動をつけるのがいい。これは4Gの重力がかかることになり、ジェットコースターに乗っているのとそれほど変わりません。体重60キロの人なら240キロの重力が加わっていることになります。

ビタミンD摂取にはシャケの切り身を

 私が協力して行った「骨トレ」の実験では2週間で4~5%のオステオカルシン増量が認められました。
これは医学的にも顕著なデータといえます。

 ただし、注意することがあります。骨粗鬆症の方が骨トレをやり過ぎると、
骨折してしまったり関節を痛めたりすることがある。トレーニングの前に主治医の先生とよく相談してください。

 最後に食事のことにも触れておきましょう。せっかくトレーニングによってオステオカルシンを分泌しても、骨を作る材料が体の中にないのでは、骨粗鬆症は防げません。骨を作る栄養素といえば、まずカルシウムが浮びます。それはその通りなのですが、骨を作るのに必要な素材はそれだけではありません。

  • カルシウム
  • タンパク質
  • ビタミンD

これが骨のための三大栄養素です。カルシウム(牛乳やチーズ、ヨーグルト)とタンパク質(肉や魚など)はよく知られていますが、ビタミンDはあまり意識されていません。カルシウムの吸収のためにはビタミンDが必須なのです。
しかし、平均的な女性の場合、1日に必要な量(15マイクログラム)の3分の1しか摂取できていません。

 ビタミンDはシイタケやキクラゲにも含まれていますが、私が一番効率が良いと考えているのはシャケの切り身。
一切れ(約80グラム)で25.6マイクログラムが摂取できる。
ビタミンDを摂るためには最強の食材です。
シャケがなければサンマやイワシの丸干しでも代用できます。

骨を作ってくれる材料を補強

さらに知っておいてもらいたいのは、骨を作る「材料」を補強する物質も必要であるということ。
いうなれば、コンクリートの強化剤です。
具体的には亜鉛、マグネシウム、ビタミンKです。このあたりになると、面倒になる人もいるかもしれませんが、まず、亜鉛はカキやホタテなどの貝類、マグネシウムはアーモンドなどのナッツやヒジキなど海藻類。
ビタミンKで一番身近なのはひきわり納豆です。海苔や小松菜にも含まれている。どれも身近な食材です。

 最近は人生100年時代という言葉をよく聞きます。
実際、日本人の生命寿命は延びていますが、がんをもしのぐほど、命を縮めてしまう病として台頭しているのが骨粗鬆症です。そこで最近の健康診断では骨密度測定をオプションで付けているところもあります。
熟年に差し掛かっている方、特に骨密度が急激に下がる55歳前後の女性の方は、一度測定してみることをお勧めします。


神戸針灸接骨治療院ではこのような健康になるためのお話なども投稿しています。


また、一人一人のお悩みや原因に合わせた治療を行なっています。
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太田博明(おおたひろあき)
川崎医科大学産婦人科学2特任教授。慶應義塾大学医学部卒、東京女子医科大学産婦人科・母子総合医療センター主任教授等を経て、2021年より川崎医科大学産婦人科学2特任教授。日本骨粗鬆症学会元理事長、日本抗加齢医学会監事。近著に『若返りの医学 何歳からでもできる長寿法』。

週刊新潮 2023年2月9日号掲載

特別読物「『骨粗鬆症』研究で発見 『糖尿病』『動脈硬化』『認知症』に効果 驚異の『若返りホルモン』を分泌させる『骨トレ』」より