「お酒に強い=肝臓が丈夫」はウソである
健康を守りながらお酒を楽しむにはどうすればいいのか。
肝臓専門医の浅部伸一さんは
「酒好きの人はアルコール性肝障害になるリスクが高い。
必要なのはお酒を飲まない『休肝日』を作ることではなく、
お酒の総量を抑えることだ」という――。
【肝臓はひっそりと悲鳴を上げている】
お酒が好きで、しかも飲むときには揚げ物や
糖質の多いものを一緒に食べることが好きな人。
加えて肥満の人は、
「アルコール性肝障害」になるリスクがとても高いでしょう。
アルコール性肝障害とは、
お酒の飲みすぎが原因の「アルコール性脂肪肝」、
それが高じた「アルコール性肝炎」、
さらにひどくなった「アルコール性肝硬変」です。
もともと肥満の人は、
肝臓の細胞にも脂肪がたまっているのです。
つまり「脂肪肝」です。
脂肪肝によってアルコールを解毒する力が弱っているのに、
そこにさらにアルコールを注ぎ続ければ……、
当然ですが肝障害は進んでしまいます。
また、ついつい深酒をして、深夜まで飲み続けるようなことはありませんか。
もちろん飲み始める時間帯にもよりますが、
一般的には深夜まで飲み続けるのは肝臓に負担をかけます。
夜というのは、体内の代謝としては脂肪をためる時間帯だからです。
【アルコールの毒を分解する重要な臓器】
お酒を飲むとアルコールの成分はすぐに腸で吸収されて、
血液の中に入ります。
その9割は肝臓の代謝機能で分解され、
1割は尿や息で排出されます。
肝臓で分解されたアルコールは、
「アセトアルデヒド」という物質に変わります。
このアセトアルデヒドが、実は体にとっては有害物質。
体内にアセトアルデヒドが長時間あると、
二日酔いや悪酔いの原因になります。
アセトアルデヒドも水や二酸化炭素などに分解されて、
やがては体の外に出て行きます。
ところが、このアセトアルデヒドを分解する時間が
人によってかなり違います。
アセトアルデヒドを分解する能力が、
高い人と低い人がいるのです。
分解能力の高い人は、いわゆる「お酒に強いタイプ」。
飲んでも全然変わらない人です。
分解能力が低い人は「お酒に弱いタイプ」。
飲めばすぐに顔が赤くなる人です。
その中間に、まあまあの能力で
「そこそこは飲めるタイプ」がいます。
3つのうちのどのタイプなのかは遺伝で決まっています。
つまり、生まれながらの体質です。
日本人の約1割は「弱い」タイプだといわれています。
毒の処理能力は生まれながら決まっている
遺伝で決まっているのは、アセトアルデヒドを代謝する
「アセトアルデヒド脱水素酵素」の働きです。
この酵素が強い人と弱い人がいるわけです。
お酒に強いタイプなのか、
弱いタイプなのかは生まれつきの体質で決まっているので、
体質改善でお酒に強くなることはありません。
「飲む機会が増えて、ずいぶんお酒に強くなったよ」
と言う人もいますが、
根本的な体質が変わったわけではありません。
その一方で、肝臓の一般的な解毒作用でも
アルコールやアセトアルデヒドは分解されます。
こちらの解毒作用は、飲んでいれば多少は鍛えることができます。
「そこそこは飲める」中間タイプの人が
「お酒に強くなる」ことはあり得るわけです。
ただし、もともと下戸げこの人は、
それも鍛えることはできません。
【「お酒に強い=肝臓が丈夫」はウソ】
ところで、ここが大切なポイントですが、
「お酒に強い人」「そこそこ飲める人」
=「肝臓が丈夫な人」というわけではありません。
お酒が強い人でも大酒を飲み続けていれば、
アルコール性肝障害や肝硬変になる可能性はあります。
肝機能を下げないために、
どのタイプの人も「適量」を、
それも時間をかけて飲みましょう。
では、「適量」とはどのぐらいの量でしょうか。
厚生労働省は「一日20g(純アルコール換算)」を適量としています。
これは、ビールなら中瓶1本、
日本酒なら1合、ワインなら2~3杯に相当します。
ただし、適量には個人差があります。
アルコールやアセトアルデヒドの分解能力に個人差があるからです。
また、男性のほうが女性よりもアルコールに強いとされています。
女性のほうがアルコールによるリスクが高いということです。
「1時間で処理できるアルコールは体重1kgで0.1g」ともいわれます。
ただし、これはあくまでも目安です。
また、現在の体重ではなく
「適正体重」で計算しなければいけません。
体重が90kgの人でも、適正体重が60kgなら、
60kgで考えるということです。
なぜ体重がひとつの目安になるかといえば、
「肝臓の大きさ」が処理能力に関係があるからです。
ただし、肝臓が大きい人のほうが
処理能力も高いことは事実ですが、
アルコールを代謝する酵素が
どれくらい活発に働いているかでも違ってきます。
【休肝日は必要ない】
なお、男性のほうが女性よりアルコールに強いとされているのは、
一般的に女性よりも骨格や体格が
大きくて体重もあるからともいえますが、
性ホルモンの影響もあるようです。
アルコールの処理能力は本当にかなりの差があります。
「二日酔いしない」「気分が悪くならない」「悪酔いしない」
ことを適量のひとつの目安にしてください。
「週に1日は休肝日をとりましょう」
と聞いたことがあるかもしれません。
そうかと思うと、「週に2日は休肝日を」と説く本や、
「休肝日なんていらない」と主張する専門家もいます。
いったい、何が正しいのでしょうか。
実は、大事なのは「総量」です。
たくさん飲む人なら、
ときには飲まない日を設けるほうがいいでしょうし、
いつも少ししか飲まない人には
休肝日がいらないかもしれません。
大酒を飲む人に必要なのは、
肝臓を「休ませる」ことではありません。
必要なのは、お酒の「総量規制」です。
【「醸造酒」と「蒸留酒」、
肝脂肪のリスクが高いのはどちらか】
お酒にも、糖質が多い種類と少ない種類があります。
糖質が少ないほうが、肝臓には優しいお酒です。
糖質が多いお酒には、梅酒などの果実酒のほか、
紹興酒、日本酒、発泡酒、ビール、ワインなどがあります。
いわゆる「醸造酒」です。
逆に、焼酎、ウイスキー、ブランデー、
泡盛、ウオッカ、ジン、ラム、テキーラなどの
「蒸留酒」には、糖質が含まれていません。
そのため、蒸留酒の方が脂肪肝のリスクが小さくなると考えられます。
もちろんアルコール自体にリスクがあることも忘れてはいけません。
一回に数種類のお酒を飲むつもりなら、
アルコール度数の低いお酒から飲み始めるといいでしょう。
「とりあえずビール!」は
その点、理にかなっているということです。
ですが、ビールは糖質が多いので、
ウイスキーを炭酸で割ったハイボールなどを
「とりあえず!」に採用するのがおすすめです。
なお、ウイスキーをストレートで飲むときなどに
「チェイサー」としてお水が供されますが、
ウイスキーに限らず、お酒の合間にはお水を飲むといいでしょう。
なぜなら、お酒を飲むと体内の水分量が足りなくなりがちだからです。
その原因の一つは、アルコールに利尿作用があること。
もう一つはアルコールの分解に体内の水分が使われるからです。
お酒の合間にお水を飲めば、
減ってしまった水分を補給することができます。
お水を飲めば、アルコールが薄められるばかりでなく、
お酒を飲む量を抑える効果もあります。
【肝臓を守る「酒の肴」の基本はこれだ】
空腹なままお酒だけを飲むと、アルコールの吸収が早いので、
アルコールの解毒作用にいそしんでいる肝臓に負担をかけます。
ですから、お酒を飲むときには、
何か「酒の肴さかな」になるものを食べてください。
肝臓がアルコールを分解するときには、
タンパク質、ビタミン、ミネラルが使われるので、
補充する意味でも、
そういう栄養素をたくさん含んでいる食品がいいでしょう。
一言で表せば「高タンパク・高ビタミン・低糖質」です。
具体的にいえば、豆腐、枝豆がおすすめです。
さらには野菜、キノコ類、果物、魚介類、脂身の少ない肉、
ナッツ類、チーズなども合格です。
ただし、カロリーオーバーは避けましょう。
お酒の席でも、栄養のバランスを考える癖をつけてください。
とはいえ、いちいち「これには、どんな栄養素がいいのか」
などと考えるのはめんどうかもしれません。
そういう人は、大豆のような豆製品、チーズのような乳製品、
魚や脂身の少ない肉など、
タンパク源になりそうなものをまず食べてください。
そして、野菜など、ビタミンを含んでいそうなものも、
忘れずに食べます。
野菜なら「レタスよりもブロッコリー」などと、
色の濃いものを選びましょう。
いろいろな色を食べれば、
自然にバランスがとれていくものです。
【果物が毒出しを促す】
果物に含まれている「果糖」には、
アルコールの分解を助ける働きがあります。
また、果物の水分やカリウムは、
アルコールの排出を促します。
特に「柿」にはタンニンの一種である渋み成分があり、
アセトアルデヒドの作用を抑えることができます。
果物の効果は、それだけではありません。
肝臓がアルコールを分解するときには、
タンパク質、ビタミン、ミネラルが消費されるので、
ビタミンCが豊富な果物はビタミン補給になるのです。
また、果物には食物繊維もあります。
さらに、果物であればゆるやかに血糖値が上がっていくので、
お酒を飲む前後でも、飲みながらでも、食べることをおすすめします。
アルコールそのものから糖はできません。
糖質の少ないお酒だけを飲んで、
何も食べずにいると、血糖値が上がらず空腹感をおぼえます。
その結果、飲んだあとにラーメンライスのようなものを
食べてしまう人が出てくるわけですが、
そのコースはいただけません。
梅酒などの甘いお酒やビールのように
たくさんの糖質が含まれているお酒でなければ、
血糖値をゆるやかに上げる果物を
お酒のお供にするのは理にかなっています。
逆に、できれば避けてほしい
酒席の食べ物も知っておきましょう。
一言で表せば、避けてほしいのは
「高糖質の食べ物」です。
高糖質とは、
たくさん砂糖が入っている食べ物だけではありません。
穀類なども糖質です。
その観点から言えば、
健康によさそうなイメージのある
「春雨サラダ」や「お寿司」にも要注意です。
春雨の成分は糖質がとても高いのです。
お寿司もお米という糖質が主成分で、
しかも酢飯には少なからぬ量の砂糖が入っています。
もちろん、少し食べる分には問題ありません。
ただ、糖質の多い日本酒を飲みながら、
お寿司をお腹いっぱい食べるようなことは、
あまりおすすめしません。
【体が悲鳴を上げるころにはもう手遅れ…】
もしかすると、「実は脂肪肝なんです」
という方が身近にいるかもしれません。
脂肪肝とは「肝臓に脂肪がたまった状態」です。
これもまた生活習慣病です。
詳しくは本書で解説しますが、
実はすでに「脂肪肝の予備軍」
になっている人はとても多いのです。
脂肪肝は、お酒が原因のタイプを除けば、
30歳ぐらいから増えてきます。
統計によると、現代の日本では、成人男性の3人に1人、
女性の5人に1人が脂肪肝になっています。
そして、脂肪肝の予備軍は2人に1人ともいわれています。
もはや「国民病」と言ってもいいのが現状です。
怖がらせたくはないのですが、
「自分は大丈夫」と思い込むのはとても危険です。
なぜなら、肝臓は自覚症状が出ない「沈黙の臓器」だからです。
「痛くもかゆくもない」ので安心している間に、
体の中では着々と脂肪肝が……、
という事態になっていないとは限りません。
そして、体が悲鳴を上げる頃には、
肝臓はすでに末期的な状態に陥っているのです。
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今回は浅部伸一さんの著書『長生きしたけりゃ肝機能を高めなさい』(アスコム)の
一部を再編集した記事を引用させていただきました。
元記事はこちら→じつは「休肝日」は意味がない…肝臓専門医がアドバイスする"早死リスク"を最小限にするお酒の飲み方 「お酒に強い=肝臓が丈夫」はウソである | PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)浅部 伸一(あさべ・しんいち)
肝臓専門医、自治医科大学附属さいたま医療センター消化器内科元准教授
1990年、東京大学医学部卒業後、東京大学附属病院、虎の門病院消化器科等に勤務。国立がんセンター研究所で主に肝炎ウイルス研究に従事し、自治医科大学勤務を経て、アメリカ・サンディエゴのスクリプス研究所に肝炎免疫研究のため留学。帰国後、2010年より自治医科大学附属さいたま医療センター消化器内科に勤務。現在はアッヴィ合同会社所属。専門は肝臓病学、ウイルス学。好きな飲料はワイン、日本酒、ビール。
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