日本人には、日本人のための病気予防法がある!
同じ人間でも外見や言語が違うように、
人種によって「体質」も異なります。
そして、体質が違えば、病気のなりやすさや
発症のしかたも変わることがわかってきています。
欧米人と同じ健康法を取り入れても意味がなく、むしろ逆効果ということさえあるのです。
見落とされがちだった「体の人種差」の視点から、日本人が病気にならないための方法を徹底解説!
日本人、こんな健康法は意味がない
「ヨーグルトで腸をきれいに」
「牛乳でカルシウムをしっかり補給」
「心臓病予防に赤ワイン」
「筋肉をつけて脂肪を燃やしましょう」
「酵素が不足しています」
「美肌の決め手はコラーゲン」……。
いつまでも健康で若々しくありたいという人々の願いにこたえるかのように、
次々に登場する新しい健康法。
たいてい、もっともらしい説明がなされ、テレビや雑誌が盛んに取り上げます。
店頭で見かけて、つい買ってしまったという人もいるでしょう。
ある食品や習慣に健康効果があるかどうか判断するのは難しいものです。
簡単な体操を続けている90歳の高齢者が元気いっぱいだとしても、その運動のおかげで寿命が延びたとは限りません。
もともと健康で体力があるから運動を続けていられる可能性もあります。
また、実験室で素晴らしい効果が確認されても、それが生きた人間の体内で同じように起きるかどうかは別の話です。
健康効果を医学的に証明するには、
第1章で見たコホート研究のように
数万人規模の参加者を長期にわたって厳密に観察し、その結果を判定する必要があります。
しかし現実には、少数の参加者を対象に、
ごく短期間おこなった簡単な調査結果をもとに健康効果をうたったり、データの一部を都合よく切り取ってセンセーショナルに報じたりする例があとをたちません。
それどころか健康効果と呼べないものさえあります。
たとえば、先にあげた酵素は体内で不足するようなものではありませんし、摂取したコラーゲンは小腸でアミノ酸に分解されるので、そのままの形で皮膚のコラーゲンに変わることは期待できません。
そして健康法にも人種差の問題があります。
メディアは欧米で流行している健康法をきそって紹介しますが、日本人は欧米人とは異なる遺伝子を受け継ぎ、異なる環境要因のもとで生きてきました。
こうして作られた日本人の体質は、当然ながら、欧米人の体質とは多くの点で異なります。
欧米人に有効な健康法が日本人にも効果があるとは限らず、それどころか有害なことすらあるのです。
そんな健康法にはどんなものがあるのか、日本人と欧米人の体質の違いに注意しながら見ていきましょう。
【1.日本人は頑張って筋トレしても“やせ体質”にはならない】
無酸素運動は、大きな負荷をかけて瞬間的に力を入れるダンベル体操やスクワット、
腕立て伏せなどの運動を繰りかえすトレーニングで筋肉がつくと基礎代謝量が増えることがわかっています。
基礎代謝とは、心も体も安静にしているときに消費する必要最小限のエネルギーのこと。
無酸素運動をしっかりおこなうと、その後、約48時間にわたって基礎代謝が高い状態が続くことから、「筋力トレーニングで“やせ体質”になれる!」と言われるようになりました。
しかし、理屈どおりにはいかないものです。
問題は、日本人は欧米人と違って簡単に筋肉がつかないことです。
人の筋肉は筋線維という細い線維が集まってできています。
この筋線維に赤と白の2種類があると聞いたことはありませんか?
赤い筋線維は「赤筋」または「遅筋」といい、ゆっくりと長い時間にわたって働くことができます。
そして白い筋線維は「白筋」または「速筋」と呼ばれ、瞬間的に大きな力を発揮できるのが特徴です。
この赤筋と白筋がはっきりわかるのが、魚です。
赤身の魚は筋肉の大部分が赤筋でできていて、その代表がマグロです。
マグロはこのおかげで広大な太平洋を回遊しながら成長を続けます。
それに対して白身の魚の代表がヒラメ。
ふだんは海底でじっと横たわっていますが、
獲物となる小魚を見つけると、すばやく追いかけてつかまえます。
人間の筋肉は赤筋と白筋がいろいろな割合で混じりあっているので、魚と違って、肉眼で赤か白か見分けることはできません。
赤白どちらの筋線維が多いかは個人差もあるものの、それ以上に大きいのが人種による違いです。
たとえば白筋の合成に関連する遺伝子に変異があると、白筋を作りにくくなります。
白筋の合成が少ない人はアフリカ系では3~10%しかいませんが、欧米白人は20%、アジア系では30%以上にのぼります。
この結果、人種ごとに平均すると、
アフリカ系の人が筋肉全体の約70%が白筋であるのに対し、欧米白人は50~60%が白筋、日本人を含む黄色人種は逆に70%が赤筋と言われ、アフリカ系の人がオリンピックの短距離走で活躍するのはこのためと考えられています。
ただし、一口にアフリカと言っても広大で、暮らす人の体質もさまざまです。
同じアフリカ系でも、エチオピア、ケニアなどの東アフリカは、白筋ができにくい遺伝子変異を持つ人が40%を占めるというデータがあるそうです。
白筋が弱い分、赤筋が発達していることが、東アフリカ勢のマラソンの強さを支えている可能性があります。
この赤筋と白筋の割合はトレーニングによってある程度変化しますが、大きく変わることはありません。
鍛えることで太くなるのは大部分が白筋なので、日本人が筋肉をつけようと思ったら、
もともと少ない白筋を集中的に鍛えることになります。
これは効率が悪いうえに、苦労して筋肉を1kg増やしても基礎代謝量の増加は1日あたりせいぜい20kcal、わずかキャラメル1粒分のカロリーです。
これによる体重の減少は年に1~2kgとされています。
体力があって、プロなみのトレーニングを続けられる人であっても、筋力トレーニングだけで基礎代謝を十分高めるのは難しいでしょう。
そして、基礎代謝には意外な側面があります。
じつは筋肉だけでなく脂肪組織もエネルギーを消費しているので、脂肪がkg減ると基礎代謝量が1日あたり5kcal下がります。
つまり、激しいトレーニングを通じて筋肉を1kg増やし、脂肪を2kg減らしたとすると、
基礎代謝量の増加は差し引き10kcalになってしまうのです。
これでは話になりません。筋力をつけるのは大切ですが、筋力トレーニングをしても”やせ体質”にはなれないということです。
やせたければ、カロリーの総摂取量を減らすとともに、日常生活のなかで体をこまめに動かしてカロリー消費を積み重ねるほうが確実です。
【2.日本人はオリーブ油を使い過ぎると生活習慣病に】
7ヵ国が参加した大規模なコホート研究から、地中海沿岸地域は心臓病による死亡率が低いことが明らかになりました。
この研究をきっかけに、この地域で暮らす人々が伝統的に摂取してきたオリーブ油の健康効果に注目が集まっています。
オリーブ油には、動脈硬化を促すリノール酸がごく少量しか入っておらず、代わりにオレイン酸が豊富です。
その後おこなわれた研究で、このオレイン酸が心臓病の発生をおさえるらしいとわかり、この説を裏づけるデータが次々に発表されました。
また、オリーブ油には、
コレステロールの合成を高めない不飽和脂肪酸が多く含まれています。
脂肪には飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸がさまざまな割合で入っており、オリーブ油やサフラワー(紅花)油などの植物性油は不飽和脂肪酸が90%近くを占めます。
マーガリンは77%、バターは逆にコレステロールの合成を高める飽和脂肪酸が70%です。
こうしてオリーブ油はヘルシーというイメージが生まれ、いまやダイエットや便秘解消に効くとしてオリーブ油を飲むようすすめる人がいるほどです。
しかしながら、これらの成分も、すでに体内にある悪玉コレステロール(LDL)や
中性脂肪を減らすほどの効果はありません。
また、いくらオリーブ油でも、大量に使えば、かえって心臓病の発症率が上がります。
なぜかわかりますか? それは、油が脂肪そのものだからです。
オリーブ油であろうが、ゴマ油であろうが、大豆油、コーン油、アマニ油、
なんであれ、油はすべて大さじ1杯で約110kcalあります。
日本人は欧米人とくらべて内臓脂肪がつきやすいので、
脂肪を摂取すれば、すぐ体について、
血糖値が上がり、血圧が上がり、動脈硬化が進みます。
心臓病も増えるでしょう。
オリーブ油の健康効果を示す文献はいくつも出ていますが、摂取すればするほど良いわけではないので気をつけてください。
動脈硬化を防ぐには油そのものの使用をひかえるのが第一です。
さらに言うと、オレイン酸は肝臓で合成できるので、意識して摂取しなくても健康がそこなわれることはありません。
そもそも、地中海沿岸地域の食事に注目が集まるきっかけになった論文は、心臓病の発症率が低い国として日本と地中海諸国をあげていました。
研究者らは論文の中で、「日本は(心筋梗塞などによる)冠動脈死が少なすぎて、患者の発症年齢、コレステロール値、血圧、喫煙歴について評価することができなかった」と述べています。
しかし、和食は一般的な欧米の食事とまったく異なることから参考にするのが難しく、欧米ではもっぱら地中海食について研究が進められたという経緯があります。
日本人が心臓病を防ぐために、わざわざ地中海食を取り入れるのは見当はずれということです。
【3.牛乳って必要?
日本人の骨粗鬆症発症率は米国白人の半分】
骨粗鬆症を原因とする高齢者の骨折は、長期臥床、いわゆる寝たきりを招くことから、
骨を強くするためにカルシウムを十分摂取すべきと考えられています。
しかし、骨粗鬆症の原因はカルシウム不足だけではありません。
じつは、骨粗鬆症は遺伝的素因が大きく、
カルシウムとビタミンDの作用、女性ホルモンの作用、骨の合成、動脈硬化などに関連する数多くの遺伝子が、骨粗鬆症の発生と関連することがわかっています。これらの遺伝子に変異が起きると骨粗鬆症の発症率が上がり、最大で80%の確率で骨粗鬆症になると推定されています。
そしてカルシウムの効果についても、世の中の常識が正しいとは必ずしも言えないようです。日本人のカルシウム摂取量は米国人の約半分ですが、骨粗鬆症の発症率は米国白人のほうが2倍高いのです。手足の骨を骨折する人の割合で見ても、日本人を含むアジア人は、欧米白人の2分の1~3分の2であることが明らかになっています。
このうち、足のつけ根部分で骨が折れる大腿骨頸部骨折は、寝たきりの原因で非常に多く、骨が弱くなった高齢者が転倒することで起こります。この大腿骨頸部骨折の発生率と、カルシウムの摂取量を国・地域ごとに比較したところ、信じられないような結果が得られました。それが図2─1です。米国、ニュージーランド、スウェーデンなど、1日あたりのカルシウム摂取量が多い国ほど、大腿骨頸部骨折を起こす人の割合が高い傾向が見られます。アジア代表として入っている香港、シンガポールとくらべてください。この報告は「カルシウム・パラドックス」として世界を驚かせました。
さらに2015年には、カルシウム摂取と骨折しやすさの関連について調べた46件の研究を総合的に分析した論文が公表され、食事からのカルシウムの摂取量と骨折の発生率には関連がないと結論づけています。
欧米でおこなわれる研究は、カルシウムを乳製品もしくはサプリメントから摂取することを前提にしていますが、日本は事情が異なります。
日本人は欧米人と違って、海藻と緑黄色野菜、大豆や小魚などからカルシウムを取ってきました。また、日本で実施された大規模なコホート研究からは、大豆と大豆製品に含まれるイソフラボンという成分が、骨からのカルシウムの流出をおさえることが示されています。日本で骨粗鬆症が少ない背景には、遺伝的素因に加えて食生活の違いがあるのかもしれません。
牛乳に関しては乳糖不耐症の問題もあります。牛乳を飲むとおなかがゴロゴロする人がいますね。これは、牛乳に含まれる乳糖という成分を分解できないことで起こります。こういう人も赤ちゃんの頃は母乳を消化できていたはずですが、成長するにつれて乳糖を分解できなくなったのです。
この現象は哺乳類で広く認められます。それが不思議なことに、人間では人種差があるのです。日本人を含む大部分の黄色人種とアフリカ系、そして白人でも地中海沿岸地域の人々は7~9割が乳糖不耐症とされているのに対し、北欧や西欧出身の白人は例外で、乳糖不耐症は1割ちょっとしかいません。
牛乳を飲む習慣は欧米から日本に伝わりました。しかし、こう見てくると、日本人の体質に牛乳が合っているかは疑問です。さらに、日本人男性4万3000人を対象に実施された調査からは、乳製品の摂取量が増えるほど前立腺がんの発症率が上がるという結果が得られました。カルシウム源として牛乳にこだわる必要はなさそうです。
【4.日本人が赤ワインを飲んでも害のほうが多い?】
以前、赤ワインが動脈硬化を防ぐと話題になりました。フランス人は肉やバターなど動物性脂肪を多く取っているのに、狭心症や心筋梗塞などの心臓病による死亡率が欧州で一番低い。それは赤ワインに含まれるポリフェノールという物質が悪玉LDLの酸化をさまたげ、動脈硬化を起きにくくするからだというのです。これを聞いて、日本でも、ちょっとした赤ワインブームが起こりました。
じつは、日本は心臓病の発症率が世界で最も低い国の一つで、死亡率もフランスより下なのです。心臓病の予防を目的にわざわざ赤ワインを飲むのは、「隣の芝生は青い」そのものです。
それにポリフェノールは赤ワインにだけ含まれているわけではありません。果物で言うと、ブドウよりブルーベリー、スモモ、イチゴに多く含まれ、コーヒーにも赤ワインと同じくらい入っています。これ以外にも、ニンジン、ホウレンソウなどの緑黄色野菜、大豆、ゴマ、ニンニク、ナッツ類、海藻、魚、緑茶など、身近な食物にいくらでも入っており、好き嫌いなく食べていれば十分摂取できるはずなのです。
それより問題なのはアルコールの害です。世界保健機関(WHO)の2014年の統計によると、純粋なアルコールに換算した1人あたりのアルコール消費量は、フランスを1とすると米国が0・77、日本は0・66です。飲酒は肝臓の負担になるだけでなく、アルコールそのものに発がん性があるからか、フランスは肝臓がんの死亡率が他の欧米諸国の2~3倍高く、男性に限ると米国の5倍にのぼります。
しかし、アルコールによる発がんの問題は欧米人より日本人のほうが深刻です。日本人の約半数はアルコールを肝臓で分解する酵素の働きが生まれつき弱く、こういう人は飲酒によって、食道や大腸、肝臓などのがんを発症しやすいことが知られています。たとえば、食道と、のど(咽頭、喉頭)のがんを合わせると、日本酒にして1日1・5合以上飲む人は、まったく飲まない人とくらべて発症率が8倍になり、1日2合以上飲む人は50倍以上高くなります。日本酒1合は、ビールなら中びん1本、焼酎なら0・6合、ワイン4分の1本、缶チューハイ1・5缶に相当します。これに対して、欧米白人には、この酵素の働きが弱い人はいません。日本人はアルコールに弱い民族なのです。
【5.日本人がヨーグルトを毎日食べると
食物アレルギーを発症することも】
食物アレルギーにはいくつか種類があり、そのうち最も多い即時型と言われるタイプでは、卵、牛乳、小麦、エビ、カニ、そばなどを食べた直後に蕁麻疹や呼吸困難、腹痛などがあらわれます。そのため診断がつきやすく、原因食物もすぐわかります。
これとは別に遅延型と呼ばれるタイプがあり、こちらは免疫細胞が活性化するのに時間がかかるので、原因食物を食べて数時間から数日たってから症状が出現します。その症状も、頭痛、発疹、疲労感、めまい、抑うつ、下痢、肌荒れなど多彩なことから、診断が難しく、疲れやストレスのせいと勘違いしたまま、症状に苦しむ人が少なくありません。
ヨーグルトなどの乳製品が原因になりやすいとされ、頻繁に食べると発症率が上がりますが、皮肉なことに、食べている人は体に良いと信じているので、ヨーグルトのせいで体調が悪くなっていることになかなか気づきません。
では、そこまでして腸内環境の改善につとめる必要はあるのでしょうか? 日本の研究グループが、日本を含む世界12ヵ国の人の腸内細菌を比較しました。すると、細菌の種類が国ごとに大きく異なり、日本人の腸内細菌は体に有益な機能を持つものが多いことがわかりました。外国人とくらべてビフィズス菌をはじめとする善玉菌が多く、悪玉菌が少なかったのです。
先ほどの牛乳にしろ、ヨーグルトにしろ、
乳製品は健康に良いという考え方は欧米から入ってきたものです。
体調の変化に気を配ることで、合う、合わないを自分で判断したいものです。
【6.日本人が夏バテをおそれてしっかり食べれば太るだけ】
日本人の基礎代謝には大きな特徴があります。基礎代謝量が季節によって変わり、それにつれて食欲が変動するのです。
図2─2のグラフに日本人の基礎代謝量の1年間の変化を示しました。春から夏にかけて下がり、秋から冬に向けて上がっています。「天高く馬肥ゆる秋」の言葉どおり、冬になると日本人の基礎代謝量は夏より8%ほど上がり、食欲も高まります。寒い中で体温を維持するには、体内でエネルギーを大量に燃やす必要があるからです。
逆に、夏は暑いのでエネルギーを燃やす必要がありません。そのため基礎代謝が1年で最も低くなり、これにともなって食欲が減って、活動量も自然に下がります。夏になると「夏バテを防ぐために、しっかり栄養を取りましょう」とよく耳にしますが、基礎代謝が下がっているのにカロリーの高いものを食べたら太るだけです。
それに夏バテになるのは、暑さで食が進まず、体力が落ちるからではありません。暑い屋外と冷房が効いた屋内の温度差による自律神経の乱れや、寝苦しさによる睡眠不足、高温多湿による発汗の異常などが重なって起きてくるので、食べて防げるものではないのです。
夏は食が細くなるのが自然です。体にたくわえられないビタミンやミネラルの摂取にさえ気をつけていれば、神経質になって無理に食べる必要はないでしょう。
欧米人など肉食中心の人種は、肉に含まれる蛋白質が起こす「DIT反応」、別名「食事誘発性熱産生」により、体内で活発に熱を産生しています。そのため夏でも基礎代謝があまり下がらず、非常に暑がります。
欧米の夏が日本の夏のように蒸し暑かったら、彼らはとても耐えられないでしょう。体温も違い、日本では体温が37℃以上になると熱があると言いますが、米国では38℃以上。人の体は、暮らす環境に適応しながらできてきたということです。
【7.日本人の便秘予防、食物繊維を摂取するだけでは不十分】
便秘は不快な症状を起こすだけでなく、便に含まれる有害な物質が腸に長くとどまることで大腸がんの発症率が上がると言われてきました。しかし、日本で7年にわたって実施されたコホート研究から得られた結果をもとに、厚生労働省が、「お通じが毎日ある人も、週に2~3回しかない人も、大腸がんの発症率は変わらない」と発表しています。
排便のリズムは個人差が大きいので、はっきりした便秘の定義は存在しません。日本内科学会は、「3日以上排便がない状態、または毎日排便があっても残便感がある状態」を便秘と呼んでいますが、このうち、とくに大切なのが残便感があるかないかです。たとえ週に1回しかお通じがなくても、すっきり出るのであれば心配ないことが多いものです。
それでも便秘が気になるなら、どうすればよいでしょう。食物繊維の摂取不足が便秘を招くのは事実で、米国疾病予防管理センター(CDC)も、便秘に関するガイドラインで食物繊維と水分を十分摂取するようすすめています。
図2─3に示すように、日本人1人1日あたりの食物繊維摂取量は、60年前の3分の2まで減りました。食物繊維を多く含む穀物、たとえば玄米や雑穀をあまり食べなくなったのがおもな原因です。
食物繊維の摂取を少しでも増やす努力が必要なのは言うまでもありませんが、日本人の便秘には、もう一つ、隠れた原因があります。脂肪の取り過ぎです。
食べた物が便になるまでの時間は、日本人は平均1日半と言われています。といっても、消化に良いものを食べれば1日もかからずに体内を通過しますし、逆に消化に悪いものを食べると3~4日かかることもあります。食事の内容によって大きく変わるのです。
日本人は伝統的に炭水化物中心の食生活を送ってきたので、脂肪や蛋白質が豊富な動物性食品を消化、吸収する能力が低く、たとえば胃酸の分泌量は欧米人の半分程度しかありません。そのため、肉、肉製品、揚げ物、乳脂肪を多く含むケーキやクリーム、ナッツ類、チョコレート、スナック菓子などは消化に時間がかかり、便通が遅れる原因になります。便秘が気になる人は動物性食品の摂取をひかえてください。水分をしっかり取り、規則正しく食事をすることも大切です。
【8.日本人はお茶やコーヒーで情緒不安定になる?】
緑茶、ウーロン茶、プーアル茶、さらには紅茶まで、お茶の仲間には、カテキン、カフェイン、ビタミンC、ポリフェノールなど、健康に役立つさまざまな成分が含まれています。ダイエットに効くと聞いて、積極的に飲んでいる人もいるでしょう。
ただし、入っている有効成分はごく微量なうえに、飲むだけでコレステロールの数値や血糖値が改善するとは、ちょっと考えられません。カフェインには利尿作用があるので、水分の排泄が増えて体重は減りますが、減るのは水分だけです。脂肪が落ちるわけではありません。
このカフェインも日本人とは相性が良くないのです。大事な仕事の前に栄養ドリンクをぐっと飲む。仕事が終われば「やれやれ、ようやく終わったな」と温かい湯吞みに手を伸ばす。カフェインは日常生活にすっかり溶けこんでいます。脳の神経を興奮させることで集中力が高まり、疲労を消す効果があるからです。
その一方で、摂取し過ぎると、頭痛、不安、抑うつ、不眠、嘔吐、下痢などを起こすことも知られており、欧州食品安全機関(EFSA)など、いくつかの国と地域が、カフェインを安全に摂取できる1日あたりの最大量を定めています。しかし、カフェインが体に与える影響は個人差が大きく、基準以内の量であっても症状が出る人もいます。
近年になって、この個人差に関連する遺伝子が見つかり始めました。そのなかの一つにはいくつかタイプがあって、どのタイプの遺伝子を持つかで、カフェインで頭がすっきりして気分が良くなるか、逆に不安が高まるかが決まります。日本人を含むアジア人は、カフェインで不快な症状が起きやすいタイプの遺伝子を持つ人が半数にのぼり、とくに日本人の4人に1人は、カフェインを150mg摂取するだけで不安定な気持ちになるという報告があります。
カフェイン150mgというと、玉露1杯、コーヒー1杯に含まれる量です。缶コーヒー1本にもほぼ同じ量が入っていますし、紅茶やウーロン茶も500mlのペットボトルで飲むと、同じくらい摂取することになります。
これに対して、欧米白人やアフリカ系の人、そして同じアジア人でも中国人は、カフェインが合わない人は少数派です。欧米人がコーヒーを、中国人がお茶をおいしそうに飲む映像は、映画やドラマ、広告でよく使われますが、日本人とは体が違うのです。
カフェインは強い作用を持ち、かつては薬として用いられていました。あくまでも嗜好品なのですから、合わないと思ったら、ひかえるのが賢明です。
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*本記事は奥田 昌子医学博士著『欧米人とはこんなに違った 日本人の「体質」 科学的事実が教える正しいがん・生活習慣病予防』(講談社ブルーバックス)を抜粋・再編集したものです。
記事のURLはこちら→ヨーグルトを食べて体調が悪化…じつは「日本人」にとっては「意味がない8つの健康法」(奥田 昌子) | ブルーバックス | 講談社(1/9) (gendai.media)本記事の抜粋元、『欧米人とはこんなに違った 日本人の「体質」 科学的事実が教える正しいがん・生活習慣病予防』では、見落とされがちだった「体の人種差」の視点から、日本人が病気にならないための方法をさらに詳しく徹底解説しています。
奥田 昌子医学博士プロフィール
MASAKO OKUDA京都大学大学院医学研究科修了。内科医。京都大学博士(医学)。医学部卒業後、博士課程に進み基礎研究に従事。生命とは何か、健康とは何かを考えるなかで予防医学の理念にひかれ、健診ならびに人間ドック実施機関で30万人近くの診察/診療にあたる。海外医学文献と医学書の翻訳もおこなってきた。現在は産業医を兼務し、ストレス対応を含む総合診療を続けている。愛知県出身。著書に『欧米人とはこんなに違った 日本人の「体質」』(講談社ブルーバックス)、『内臓脂肪を最速で落とす』(幻冬舎新書)など多数。