歳を取ると、骨、関節、筋肉などの「運動器」の能力が低下し、
それが原因で寝たきりになったりする危険性がある状態を
「ロコモティブシンドローム」(略称「ロコモ」)といいます。
ロコモアドバイスドクターの渡會公治先生が提唱する「長生きストレッチ」は、
支えがないと歩けなかった女性がひとりでトイレに行けるようになったなどと評判の、
ロコモ対策トレーニングです。
【バッグは左右均等に持つ】
愛用しているバッグの持ち方を、ふだん意識したことはありますか。
通勤時、ビジネスバッグを左右で持ち替えたりせず、
つねに同じ側の手で持っていませんか。
トートバッグをどちらか片方の肩にずっとかけ続けたりしていませんか。
せっかくリュックサックなどの背負うタイプのカバンを持っているのに、
両肩で背負わず片方の肩にひっかけたまま歩いていませんか。
「体に悪い歩き方」にならないように気をつけるポイントは3つ。
もっとも大切なポイントは体の左右のバランスをとることです。
どちらかに偏ると体全体が歪んで、ひざや腰に負担をかけることになります。
バッグを持って歩くときは、左右均等に持ちましょう。
ショルダーバッグやトートバッグは、意識して交互の肩にかけ替えるようにしましょう。
私の専門はスポーツ医学です。
よく街なかで、スポーツ医学的に間違った歩き方、
つまり、「体に悪い歩き方」をしている人を見かけて内心はらはらしてしまいます。
というのも、バッグの持ち方を変えるだけでも、
体の負担を減らして将来ロコモになるリスクを減らすことができるからです。
「体に悪い歩き方」にならないように気をつける2つ目のポイントは、
股関節を意識して歩くことです。
「脚はどこからですか?」という質問をすると、
ほとんどの人が股関節の付け根のあたりを指します。
しかし、股関節は骨盤と筋肉で結ばれています。
そして股関節を曲げる大腰筋は胸椎12番、みぞおちの奥から始まります。
人間が歩くとき、このような骨や筋肉が関わってくるのです。
だから、正しい脚の出し方は、胸のあたりから背骨と骨盤を意識して、
太もも・つま先までまっすぐに出すこと。
そうすると、背骨と足の真ん中で股関節が動きます。
股関節を意識して歩くというのは、こんなイメージの歩き方です。
「体に悪い歩き方」にならないようにする3つ目のポイントは、
ひざとつま先の方向が同じになるようにすることです。
ひざが内を向いていても、外を向いていても、
つま先が同じ方向なら、ひざに負担はかかりません。
逆に、ひざは内を向いているのに、
つま先は外を向いているとひざに負担がかかる歩き方になります。
ひざに負担のかかる歩き方をしていても、
ある程度までは人間の体は適応してしまいます。
しかし、そのまま長い年月が経過すると、
限界を超えて痛みを感じるようになります。
【立つこと、歩くことは、人間の動作の基本】
授業の中で学生に協力してもらって、
軽くスクワットをしたときに曲げたひざが
足に対してどこを向いているかというデータを取ったことがあります。
その結果、およそ6割の学生のひざがよくない方向に向いていることがわかりました。
具体的には、母趾(親指)より内側が14%、母趾が45%、
足の中央とされる第2趾(足の人差し指)が34%、第2趾より外側が7%でした。
つまり、約6割の人は「体に悪い歩き方」をしている可能性があるということです。
立つこと、歩くことは、人間の動作の基本中の基本。
日常生活の動作のかなりの部分を占めています。
街中で歩いている人を見ると、股関節を使わずに歩いている人がいます。
高齢者によく見られますが、背中が動かずにひざ下だけを使って、
ちょこちょこと歩いている人もいます。
歩き方を改善すると、
それだけでも腰やひざに余計な負担がかからなくなり、
腰やひざの痛みも軽減します。
私はスポーツ医学を専門としていますが、
一方で、スポーツ選手でもない高齢の患者さんにロコモ対策を指導しています。
なぜなら、スポーツ選手を悩ますスポーツ障害と、
一般の方々を悩ます運動器障害は、基本的には同じ理由で起きるものだからです。
スポーツ選手が障害を抱えてしまうのは、
トレーニングの原則に反する練習をしたり、
体の構造に合わない動きをしたりすることが原因です。
これは、一般の方が間違った体の使い方を続けたことで
運動器に障害が起きるのと同じように考えられます。
【痛みの原因は、かならずしも老化ではない?】
私のもとに来院してくるのは若くて元気なスポーツ選手、
そして高齢者の皆さんです。
どちらも「腰が痛い」「ひざが痛い」といって相談に来ます。
高齢の方の痛みの原因は、かならずしも老化ではありません。
若いスポーツ選手と同じように、「痛くなることをしたから痛い」のです。
つまり、多くの場合、スポーツ選手も高齢者も
「上手に体を使えていない」から痛くなっているのです。
ということは、対処法もやはり同じになります。
まずは、体を上手に使えるようにすること。
このシンプルな考え方にもとづいて考案したのが「長生きストレッチ」です。
人間の体は、若者だろうと高齢者だろうと痛む場所は共通しています。
人間の体の構造は同じですから当たり前です。
私がおすすめする「長生きストレッチ」は、
スポーツ選手で実践してきたスポーツ障害対策がベースになっています。
「長生きストレッチ」の主な運動メニューとして、
「長生きスクワット」があります。
今回は「長生きスクワット」の具体的なやり方を紹介しましょう。
「長生きスクワット」には、体の感度を高める効果があります。
どの筋肉を使っているか、どれくらい続けると気持ちいいか、
どれくらい続けると筋肉が張ってくるかなどを意識しながら続けていると、
体のわずかな変化を感じ取ることができるようになります。
体の声が聞こえるようになると、
その日の体調に合わせてマイペースでトレーニングができるようになります。
無理をしないわけですから、続けることが容易になります。
では、さっそく「長生きスクワット」をやってみましょう。
直角になっている部屋のコーナーに立って「長生きスクワット」を行います。
コーナーを使うことで、内側に入りがちなひざの向きを確認しながら、
正しいフォームでスクワットが行えます。
最初は1セット5回、1日10セットを目標にしてください。
【「長生きスクワット」をやってみよう】
①コーナーを背にして立ち、両脚をかべに沿って広げていきます。
このとき、おしりとひざはかべにつけたままで行います。
②背すじを伸ばし、上体をやや前傾させ、両手は太ももに置きます。
③太ももに置いた両手をひざに移動し、おしりとひざをかべにつけたまま、
太ももとふくらはぎの角度が90度になるまで腰をおろします。
このとき、イスに座るようにお尻からおろしてください。
太ももの裏側の筋肉に力が入っていればOK。
また、ひざがかべから離れてしまうときは、
手でひざをかべに押しつけるようにしながら腰をおろしましょう。
④腰をおろしたら、ゆっくり②の状態に戻します。
確認しよう① 肩が脚全体の上にくる
確認しよう② ひざがかべから離れない
確認しよう③ ひざと足を同じ方向に曲げる
今回は渡會 公治さんの著書『長生き足腰のつくり方』(アスコム)から一部引用・再編集した記事を紹介しました。
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