東京都健康長寿医療センターの青柳幸利先生は、
2000年から、自身の出身地である群馬県中之条町に住む
65歳以上の住民5000人を対象に、「中之条研究」を20年以上続けている。
【歩数だけでは不十分“速さ”にも着目を】
日常の活動と病気予防の関係を探る調査研究で、
対象の住民全員が365日、「身体活動計」を腰に装着している。
「このデータを分析してみると、1日7000〜8000歩が、
高血圧症や糖尿病などのさまざまな病気を予防できるピークで、
それ以上歩いても大きな効果がないことがわかりました。
さらに、1日20分間の『中強度の運動』を組み込むことで、
万病が予防できるということも判明したのです」(青柳先生、以下同)
例えば、散歩を「中強度の運動」にするには、
「なんとか会話ができる程度の速歩き」をする必要がある。
つまり、ただダラダラと歩いている程度ではダメで、
速く歩くことで身体に負荷をかけることが大切だということ。
骨密度や筋肉量を増やすには“刺激”が肝心なのだ。
「和歌山県や静岡県でも健康づくりの指導をしているのですが、
興味深いことがわかりました。
みかん農家さんは8000歩以上歩いているのに、高血圧の方が多いんです。
調べてみたところ、『中強度の運動』はほとんどゼロ。
それが高血圧になりやすい原因だと考えています」
青柳先生の研究によれば、1日1万歩歩いていても、
運動強度が低くて骨粗鬆症になったと考えられるケースもあったという。
また、別のケースでは毎朝、
1万歩を目標に愛犬の散歩に行っていた70代の男性が、うつ病を発症した。
「実はこの方、散歩以外の時間はソファでダラダラ過ごしていたようです。
つまり、日常の身体活動が不十分だったと考えられ、
一度にたくさん歩いても、
健康をキープできるというわけではないということが言えると思います」
【「毎日1万歩」で免疫力が低下!?】
激しい運動ができれば健康だという認識も間違いだ。
適切な運動は免疫力を上げるが、
過度になれば身体は疲弊し、免疫は低下するそう。
「これは、白血球に含まれていて免疫に関わるNK細胞や、
白血球の一種で身体に侵入した細菌を処理する好中球が減少するため。
免疫が下がれば、風邪などをひきやすい状態になってしまいます」
スマホのヘルスケアアプリの機能で、歩数を毎日チェックしている人は多いが、
「歩数だけではなく、もっと運動の負荷を意識してもらいたい」と、青柳先生。
「イギリスの調査で、活動量の確認をしていた場合は、
そうでない場合と比べ、歩数が1日あたり平均2000歩増えたという報告がありました。
モチベーションを上げる上でも役立ちます」
では、日常生活の中で手軽に運動の負荷を上げるには、どうしたらいいのだろうか。
「正しい速歩きを1日20分、行うこと。
その際、歩幅を大きく広げることを意識して歩いてみましょう。
運動強度が中強度の歩き方は1分あたり120歩程度ですが、
それぞれの身体能力によって異なるのであくまでも目安としてください。
若い人とシニアでは歩く速さが違っていいのですが、
速歩きをした合計時間が1日で20分になると理想的です」
【ウォーキングは朝にやってはいけない】
運動にはタイミングも重要。朝散歩には健康的なイメージがあるが、
中之条研究の結果ではおすすめできない。
「散歩を習慣化するのはいいことなのですが、朝起きてすぐは避けてください。
特に危険なのは、起きて1時間以内。
起床直後の私たちの身体は水分がカラカラ、血液がドロドロの状態。
そんな状態で運動をしてしまうと、心疾患や脳卒中のリスクが高まります」
青柳先生が推奨するのは、「夕散歩」だ。
人間の体温は日中に体温が上がって、夕方がピークになり、
そこから徐々に下がり、眠気を覚えるようになるという。
「散歩をして夕方に体温を上げると、就寝前にグッと降下し、熟睡しやすくなります。
16〜18時の間に速歩きをすると、血液の巡りがよくなり、体温もアップしますよ」
中之条研究でも就寝時の体温が起床時より0.5℃以上高くなった人は、
不眠を解消できたという。
「加齢とともに最高体温と最低体温の差がなくなり、不眠に陥りやすい。
免疫力も体温が1℃上がることで約60%アップし、
逆に1℃下がると30〜40%ダウンするといわれるので、一石二鳥ですね」
健康効果を確実に得るためには、まず2か月このウォーキングを続けてほしい。
「1日8000歩、うち速歩き20分の生活を続けると、
長寿遺伝子にスイッチが入り、健康長寿の身体になれます。
洗濯物を干したり、買い物に行ったりした歩数を含め、
あくまでも生活の中で目指してください。
台風などで外出できないときは、1週間トータルで達成できれば合格です」
また、ダイエットが目的なら、速歩きは20分間連続でしたほうが効果的とのこと。
とはいえ、自分の年齢や体力に応じて目標を見極めていこう。
「脚に痛みがあるような人は、
命に関わる病気を予防できる1日5000歩、速歩き7・5分から。
もう少し歩けそうな人は、
がんや骨粗鬆症が予防できる1日7000歩、速歩き15分を実践してみてください。
そこから歩数を少しずつ増やし、8000歩に増やせばいいのです」
【先生本人も実践! 血圧・血糖値が正常に】
歩数や中強度の運動は、工夫しだいで十分増やせる。
「80代のある女性は2階にいても1階のトイレに行っていたそうです。
暮らしにあえて不便さを取り入れ、目標を達成するのも手。
スーパーの入り口から一番遠いところに車を止めて歩く、
エレベーターやエスカレーターではなく階段を使うのもいいですよ」
現在、60歳の青柳先生は、5年前、仕事の忙しさもあり、体調が思わしくなかった。
「もともと喘息の持病があるのですが、
会話の途中でよく咳が出るようになっていたのです。
健康診断では、血圧、中性脂肪、血糖値がすべて基準値超え。
健康指導をしているのに、『医者の不養生』を体現してしまいました(笑)」
これはいつ脳梗塞、心筋梗塞で倒れてもおかしくないと覚悟し、
自身もウォーキングを開始したという。
「最初、張り切ってたくさん歩いたら、免疫力が下がって……。
中之条研究で皆さんに、『1万歩以上歩くと、病気になります』
などと偉そうに言っていたのに、
自分がインフルエンザにかかって、
『ああ、やはり免疫力が下がってしまった』と反省しました」
食生活も見直して、好きなお酒もいったんやめた。
「ひどかった健康診断の数値も、今は正常値になりました。
気になっていた咳もほぼ出なくなり、体調もよくなりました。
これからもウォーキング習慣は皆さんを見習って続けたいですね」
データ分析に基づいた、万病が予防できる歩き方を、今日からぜひ試してみて。
【健康寿命を延ばす正しい歩き方】
ポイント1【毎日8000歩を目標に】
家の中だけだと1日4000歩以上にならない。
買い物や図書館などの用事をつくり、1日1回は外出を。
時間帯は体温が一番上がる夕方がベスト。
1日トータルで8000歩前後を目指そう
(脚が痛い人は少ない歩数から始め、だんだんと増やす)。
ポイント2【20分間の「大股速歩き」を取り入れる】
速歩きをするときは特に大股で。
速さは「なんとか会話できる程度」を目安にすると、ベストな運動強度になる。
20分続けて速歩きをするのが難しい人は、
5分、10分と時間を区切って合計20分になればOK。
今回は医学博士の青柳幸利先生の記事より引用させていただきました
元記事はこちら→朝の散歩は血圧上昇や水分不足で心疾患や脳卒中のリスク、医学博士がすすめるのは「夕散歩」だった!健康維持だけでなく快眠の効果にも期待 | 週刊女性PRIME (jprime.jp)青柳幸利先生●東京都健康長寿医療センター研究所 運動科学研究室長、医学博士。「中之条研究」は世界中から称賛を浴び、高齢者の運動処方ガイドラインの作成に関する研究に従事。
(取材・文/宇野美貴子)
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